マカイバリ 紅茶
マカイバリ 紅茶


2014年11月20日
東京大学 校友会
*1 ルドルフ・シュタイナー:19世紀〜20世紀初頭のオーストリアの哲学者、神秘思想家、人智学の創始者。
*2 アーユルヴェーダ:インドの伝統医学。
*3 マルチング:土表に植物の葉(グァテマラグラス)を敷き詰める農法。詳しくはこちら
 
持続可能なお茶の真理の夜明け
雌牛が神聖な理由

雌牛はインドの農業全般にとって重大な意味を持ち、私たちが愛するお茶にとっても同じです。雌牛はほとんどの村で崇拝されています。雌牛の糞やその堆肥で手が汚れることをいやがる農民は全くいません。農民は、よく管理された雌牛の糞は、最高の肥料であるばかりでなく、土壌の最高の治療の担い手であることを知っているのです。無駄は一切ありません。雌牛の尿も害虫駆除として大規模に使用されます。

さて、この知恵はどこから来たのでしょう。なぜバイオダイナミック農法が貧しい農民の心を惹きつけるのでしょうか。その橋をかけたのが、ルドルフ・シュタイナー*1のインドの太古の叡智に対する高い尊敬です。彼は哲学者、科学者、霊能者、預言者でありました。シュタイナーが、クリシュナ神の荘厳な深みと美しさで人類に語った教えが書かれたインドの聖典、バガヴァッド・ギーターを十分に理解していたことが、バイオダイナミックの実践に極めて重要なつながりを生み出したのです。バガヴァッド・ギーターは、どのようなことでも霊的に達成できることは、各個人がクリシュナ神を通して最高の完成度で達成できるという知識の道を教えています。一方、キリストは社会共同体に対して神の啓示を与えています。これが東洋と西洋の両極性ですが、対立的な関係ではありません。お互いに補足するいわばコインの表と裏のような関係です。

この偉大な哲学者は、古代ヴェーダの時代の悟りを開いた賢者が提唱したカルマの法則を理解して採用したのです。 ヴェーダと呼ばれる聖典を後世に残した賢者たちは、人類の健康のためのアーユルヴェーダ*2の薬の創設者でもありました。この薬草の大部分はヒマラヤ地域に生息するもので、現在、この地域はダージリンやチベットという名で知られています。建物や土地、個々の配置に適用されるヴァスタ・シャーストラというインドの伝統的な風水の科学やアーユルヴェーダの薬、そして仏教は三千年前から次々と中国に伝わっていきました。これらの薬草は千四百年という中国文化の中で奇跡的な治癒力をさらに増したのですが、お茶がその薬草のひとつであったことは誇張とはいえないでしょう。こうしてみれば、お茶というのは約五千年間もの間、治療の役割を担ってきたわけです。

さて、なぜシュタイナーはバガヴァッド・ギーターを重要視したのでしょうか。彼は、悟りをめざす霊的な人生を歩もうとする者は誰でも、キリスト以前の千年とキリスト以後の二千年という時代を学ぶ必要があると述べています。キリスト教以前のメソポタミア・エジプト文明の時代は、霊的な連続性の流れが存在し、傑出した個人の出現というものはなく人類は霊的に高次の次元とつながりを持っていたのです。霊的な人生を探求したプラトン、アリストテレス、ソクラテスのような人物がギリシャで出現しました。この流れは心の内側に平安を見出そうとする個人の霊的な探求の道として今日まで続いています。

そして三千年前よりも以前、古代インドの聖なる原始の時代から聞こえてくる偉大で神聖な詩、バガヴァッド・ギーターに虚空の時代が見つかるのです。この時代に調和をもって包括的な統合を説くヴェーダ、サンキヤ哲学、ヨーガという三つの際立った霊的思想が出現します。

現在という時代、私たちはどうやって宇宙的な意識への包括的な橋を築いていけばよいのでしょうか? 存在のすべての問題は、本質的に調和の問題です。では、人はどうやって調和を見出したらよいのでしょうか? もちろん、自然からです。自然は叡智の結晶です。自然の中に出てみれば、この叡智の結晶が私たちを魅了します。私たちの心を快活にする太陽からの光も自然のあらゆるところに神聖な光として存在し、それを私たちの魂が感じ取り見出すことができなければなりません。

1971年、マカイバリで散歩をしているときのことでした。森林の表土は決して消耗しないことがわかったのです。これは絶え間なく進化する改良のプロセスでした。落ち葉の層がマルチング*3を形成し、激しい降雨から土地の浸食を防ぎます。腐敗したマルチングが腐食土となり、それがすなわち土の健全さと活力なのです。これがシュタイナーのバイオダイナミックの実践へと道を開き、さらにパーマカルチャーの導入により強化され、お茶はパーマカルチャーが提唱する6つの植生の層の一部として栽培されるようになりました。マカイバリでは第1層の原生林にこの洗練された構造をはっきりとみることができます。

バイオダイナミックの実践は、マカイバリを絶え間なく進化する動的な有機体に変化させたダイヤモンドでした。この結果、マカイバリは、出資者の参加を伴いつつ、女性の社会的地位向上、代替無公害再生エネルギーの使用、共同体による森林管理など「アジェンダ21」の実践者となりました。大地での仕事は、降り注ぐ宇宙の力であり、それが効果的に多様な生命体に取り入れられ、地上では作物、果実やその他の資源からの提供されたものが与えられます。これは完全な社会的な結合であり、人類は同じ力で創造者にも破壊者にも成り得るのです。バイオダイナミックは、宇宙の力を調和的に安定的に使用して大地を動的に変換させる媒体として人類を進化させようとするものです。これは支配ではありません。支配は自ら足枷をつくります。バイオダイナミックは、相対的に自由な相互に恩恵のある向上です。究極的に分析をしてみれば、これによって人類が、生きとし生けるものすべてが環境破壊に勝利するのです。

マカイバリ 紅茶 バナジー氏
講演会後の交流会。ラジャ・バナジー氏は常に多くの人に囲まれています。